スウィート・シング

This little black-and-white indie is a sorrowful tale of trailer life in America. It is a Cassavetes' Faces fly-on-the-wall sort of tale where a challenging abusive parenting melodrama takes the front seat to these small-town kids' acting debuts. 65-year-old director Rockwell has the poetically earnest qualities of a fresh director out of film school. Will hardly leave a smile on your face.

「イン・ザ・スープ」より、個人的には断然好きです。
父親以外、本物のファミリー（母親は監督のパートナー）だからこそのリアル。特に厳しい家庭環境の中で、お互いを思いやる姉と弟の姿が心に染みます。
美しいモノクロの画像が、過酷な毎日から飛び出した子供達を生き生きと映し出し、スタンドバイミーを彷彿させるような中盤。一転その後の悲しい出来事から、子供達が成長し、少しずつ大切に毎日を生きていく姿に安堵しました。
追記　映画前後の監督のトーク、映画の内容を理解するのに凄く参考になりました。

ネタバレ！ クリックして本文を読む
"What's the use of trying？"
このフレーズは、『モダン・タイムス』でチャップリンの隣で生きる気力を無くしたポーレット・ゴダードが演じていた役名のない浮浪少女が泣き崩れたときにチャップリン演じる工員が励まし、彼女の手を取り、二人してはるかに遠い一本道を太陽に向かって歩くラストの有名なシーンから．．．　この映画『スウィート・シング』では『スターウォーズ』なんかでは黒澤のオマージュから場面展開でワイプを使うシーンをまれに見かけるけども．．．　しかし、ここではサイレント映画でよく使われていたエフェクト演出の一つ、画面を丸く閉じながら暗転させる手法であるアイリスアウト（iris out）を何回か監督は場面を変える展開の時に使っている。そしてある場面では題名を忘れたけどチャップリンの"レンガ積み" の場面を思わせるところなんかもあり、そんなところから監督はフィルスコアも含めてかなりノスタルジックにほろ苦くて希望に満ちた成人前のソウルフル・フィルムに仕上げている。

Nico: I don't believe in Santa. Only little kids do.
Billie: I believe in him. I think the people who don't are stupid.
Nico: Really? Then how does he get in the house?
Billie: I think elves make keys. Either that or shrinks in and goes down
the chimney but I mean I don't know. 　As long as you make a
note, he'll get your a gift.
Nico: Really?
Billie: Yeah.
11才の男の子としての新しく芽生え始めた自己顕示が「そこらのガキと一緒にしないで、サンタなんかどうせいないや！」とプレゼントを貰えないと予め思っているほうが、気休めになり、ガッカリするところを見せたくない彼なりのいじらしさから「サンタなんていない」の言葉となり、でもその割には、ビリーの言葉に「ほんとに？」なんてまだまだ子供っぽいところがニコにはあって安心してしまう。
それが、"I'm not a pussy." なんて言うことで姉のビリーに母親の恋人から性的虐待を受けたことをあまり語りたがらないニコなりの自尊心の表れの態度にも通じている。

FILMMAKERマガジンのインタビューより．．．　ロックウェル監督はこの映画を製作するにあたり、冗談のように聞こえるかもしれないけれども彼の家の地下室の浸水に対しての保険金が入ったことで映画を作ることに．．．　いくらかは知れないけれどもそんな額で映画を一本作れるのかと思っていると彼は現在ニューヨーク大学の映画製作部門で教鞭をとっているので映画スタッフ12人のほとんどが院生やインターンでしかも彼らは無給で働いていたとか．．．　実地訓練なのか若い彼らにとってはお金では代えられない機会を与えられたラッキー者と言えるかもしれない。
そしてこの映画が、彼の実父への回帰であり、そのことは父親のアダムが地下室で飲んだくれていたシーンや母親の恋人の存在などは彼の実体験によっている。つまり、この映画は我が子の姿へ自分自身を投影したバイオピックと言えるかもしれない。

Outlaws and renegades！
この映画でデビューを果たしたマリクを演じたジャバリ・ワトキンス．．．　　ニューヨーク市の公園で実際に親のいないジャバリを見つけ共に田舎で暮らした彼ら。
監督は彼について「ジャバリは映画の生命力のようなものです。彼のすべてのことは、自発的で生命に満ち、規則に逆らい、すべてに逆らうことです。だから私は彼のパフォーマンスをそのまま活かしました。」

Film is expansive. Film is the world.
利便で全天候型のiPhoneやデジタルカメラで若者が撮影をするのも納得したうえでロックウェル監督が16mmフィルムにこだわった理由は彼の理想は、ある瞬間から次の瞬間へ、一つ一つの点から次のあらゆる方向へと人が動くように奥行きのある広い世界観をザックリと描きたかったのかもしれない。

71%OF CHILDREN IN POVERTY ARE CHILDREN OF COLOR
アメリカにある非営利団体Children’s Defense Fundによる2021年の統計が出ていたけれども決して映画とは関係がないにしても経済大国のイメージとはかなりかけ離れFeeding Americaによると2020年では3800万人が貧困にあえいでいて、その内、子供たちが1200万人以上も占めている。

この映画の原題『Sweet Thing』のタイトルとクロージングミュージック・シーンには、ヴァン・モリソンの「SWEET THING」の存在が欠かせない．．．彼は「この曲は特に誰かについてではなく、感情についてのロマンチックな愛のバラードです。」と語っていたが、誰かが決して失望させない音楽と例えたように私的には子供の持つ"純真さ、純粋さ、憧れと素朴さ" を歌詞の
And I will never grow so old again
And I will walk and talk　の中に表れている気がする。
象徴的な歌手のビリーホリデイとビリーの汚れのない純白な心に共鳴する声にちなんで彼女はホリデイをある種の守護天使であると想像してしまう。
人種の問題は決して明白な方法で取り組まれることはないが、その微妙な影響は、成人期に向かう途中で克服しなければならない不確実性という行き当たりばったりの構造の一部として紛れもないものとして映画では映し出されている。警察の暴力行為は私たちを現実に一瞬で引き戻し、これは、モノクロで描写することで、映画自体が越えなけれならない難関が伴うことを思い出させる。

『スタンド・バイ・ミー』と比べられるかもしれない本作．．．　決して、キングの非ホラー系映画の商業主義的で自己満人物の小説とはかなりの精度で一線を画し、監督ならではの誠実さと楽観主義は映画の中で輝いている。また、人生の道に迷う可能性のある全ての事を自分自身で解決する若者へのエールにもなっている。